百合の花束を買って、タクシーに乗った。行き先を告げると、運転手がほんの僅か息を呑んだのが分かった。  おずおずと話しかけられる言葉に生返事を返していたら、そのうち車内は沈黙に包まれる。エンジン音と流れゆく景色にぼんやりと意識を向けていたら、あっという間に目的地に着いた。  運賃を払って車から降りる。風が吹いて手に抱えた花束を揺らした。  墓地。大切だった人の眠る場所。  迷いなく進んで目的の墓石の前に立つ。花束を置いて、そのまま祈ることもせずに墓石を見つめる。  祈り、なんて無駄だ。祈ったところでかみさまはサイコロを片手にボク達を眺めているだけなのだから。 「ねえ、どうして――」  どうして、君は死んでしまった?  どうして、ボクの大事なものはこうやって、手からこぼれ落ちていくのだろう。  少しでも優しい世界があるのなら、君はボクの隣で笑っていてくれただろうか。  ああ、どうしてこんなにも、世界は残酷なのか。  どこまでも冷徹なこの世界へまた憎しみを募らせて、ボクは静かに墓地を後にした。