廻遊庭園に休憩に出た仁武、六花、玖苑、一那は、入場門をくぐって立ち止まった。広い園内の、どこへ行こうか?


海上都市燈京の北東部にある、廻遊庭園。人々の憩いの場所になっているここは、入ってすぐの回転木馬や、奥にあるゴンドラなど、大型の遊具が目立つ。しかしそれだけでなく、年中花が咲き乱れる植物園に、大小さまざまな動物と触れ合えるふれあい動物園といった、大人も楽しめる施設がそろっていた。  訓練の息抜きに廻遊庭園を訪れた、仁武、六花、玖苑、一那は、入場門から少し歩いたところで立ち止まり、おのおの園内を遠く見渡した。

「ボクはみんなに着いていくことにしようかな」 「オレも特に希望はない」

早々に話し合いを放り出した玖苑と一那に視線を向けられ、仁武は六花の顔を見下ろした。いつものようにスケッチブックを抱きかかえた六花も、仁武同様に、困ったような苦笑いを浮かべている。

「六花は、どこか行きたいところはあるか?」 「おれは、強いて言うなら植物のスケッチがしたいですけど……。仁武さんは行きたいところ、ありますか?」 「俺か? 俺は……その……」

六花に合わせる、と言い切ることもできず、かといって自分の行きたいところも言えず。もごもごと口ごもった仁武を見て、玖苑がにやりと笑みを浮かべた。一那も目元を細めて、ひとり小さく頷いている。  それに気付いて、言うな、と口元だけでふたりに伝えようとした仁武だったが、それが通じていても黙らないのが玖苑だ。

「仁武はふれあい動物園に行きたいんだね? 小さい生き物との交流、実に結構じゃないか。ボクは仁武とふれあい動物園へ行くことにするよ!」 「玖苑~~!!」

顔を赤くしてうなった仁武に、合っているんだろう? と玖苑は悪びれない。六花はおどおどとふたりを見比べて、スケッチブックを抱き直した。

「ええと、じゃあおれは別行動で、植物園に……」 「オレも……小さい生き物は、近寄りたくない」

じり、と方向を変えようとした六花と一那を見逃さず、玖苑は背後からふたりを抱きすくめる。右腕は六花の肩に、左腕は一那の腰に。

「ひゃあ!?」 「……クオン」

情けない悲鳴を上げた六花と、横目で睨みをきかせる一那と。まったくそれに構わず、玖苑は意外に強い力で、ふたりを連行し始める。

「せっかく一緒に来たのに、別行動なんて寂しいじゃないか。みんなで行こう! 一那はマスクをしているから大丈夫だし、六花くんは動物をスケッチしたらいいんだよ」 「えっと、あの、玖苑さん」 「そういう問題じゃないんだが……」

戸惑いつつも、ふたりは玖苑にどんどん連れ去られていく。発端のはずなのに、なぜか置いてきぼりを喰らった仁武は、頭を抱えて空を見上げた。  玖苑にはすっかりバレているし、一那とは以前、ふれあい動物園の前で遭遇したことがある。だからまあ、自分が小動物の前で緩んだ顔をしているのを見られても、そこまで抵抗はないのだが。

「六花に見られるのは、なんというか……恥ずかしいな……」

せめて、スケッチの参考になるように、うさぎを目の前に連れて行ってやるとしよう。いや、それはむしろ余計恥ずかしいんじゃないか?  遠くから、玖苑が仁武を呼んでいる。仁武はぐるぐる考えを巡らせながら、三人のほうへ駆け寄ったのだった。