「花見酒をしよう!!!!!!」

ばばーん、と効果音がしそうな勢いで司令室に飛び込んできた玖苑は、開口一番にそう言った。というか実際に、開け放たれた扉がすごい音を立てたので、効果音がついていたと言っても差し支えない。  仁武は、目を通していた書類から顔を上げて、入り口で瞳を輝かせている玖苑を見やった。

「お前はいつも唐突だな……」 「今日はいい天気だし、桜が見事に咲いているんだ。これは花見酒日和だろう!」 「まだ昼だぞ」 「昼だからいいんじゃないか、ほら行くよ仁武」 「おい……!」

仁武にするりと近寄ってきて、腕を取って連れ出そうとする玖苑。仁武は軽く抵抗したが、こういう時の玖苑は、説得が面倒なことを思い出して、考え直す。  2時間だけだぞ、と仁武が言うと、いいとも! と玖苑は軽快に頷いたのだった。

◇

「……で、なんでその花見酒に僕まで呼ばれたんですかね」 「全くだ。オレもわからない」 「お、来た来た。こっちだよ〜」

不満げな四季と不思議そうな一那を、敷布の上から十六夜が手招きする。敷布にはつまみらしい乾物が広げてあって、十六夜の手にはすでに酒の注がれた猪口があった。

「……酒じゃない飲み物、ないんだったら帰りますけど」 「あるある、四季と一那のために用意したやつなんだから」 「だってさ」 「そうか」

大酒飲みなのは玖苑と十六夜で、多少嗜むのが仁武。四季は人前で酒を飲む気はないし、一那は最近まで飲めない歳だったので耐性がない。  本当に、なんで自分たちまで呼ばれたんだか、と内心で呟きながら、四季は敷布の端に座る。一那は十六夜と四季の間に座ることにしたらしかった。仁武となにやら話していた玖苑が、反対側からにじり寄ってくる。

「四季くんもたまには飲めばいいのに」 「お断りします」 「そうかい」

じゃあこれね、とみかんジュースがコップに注がれる。意外と、酒については押しつけがましくない男らしい。一那にもみかんジュースを渡して、玖苑は盃を掲げた。

「綺麗な桜に、乾杯!」 「「「「乾杯!」」」」

◇

一那の隣の十六夜が、いつもの数割増しで陽気になって、面倒くささが増した頃。向かいで静かに酒を飲んでいた仁武が、ぼろぼろ泣き始めた。

「桜が散る姿は、儚い……」

本で読んだようなセリフだ。四季とふたりで目を丸くしている一那とは裏腹に、玖苑と十六夜は動揺した様子がない。玖苑が仁武の背をさすり始めた。

「たしかに儚いけど、美しいじゃないか」 「失われた命を思うと、俺はっ」 「……そうだね」

仁武は酔うと、こういう感じなのか。一那はたまに、十六夜に呼ばれて、酔い潰れた仁武を回収することがある。だが、そのときはすっかり眠っているから、仁武の酔っている姿は知らなかった。一那が連れ帰るとき、何か話しても、脈絡のない寝言くらいだ。  わあわあと子どものように泣く仁武を見ていると、一那にも好奇心が湧いてきた。自分が酒を飲んだら、どうなるのか。たとえば急に殺意が消えて、置物の猫のようになるかもしれない。そんなことがあるのか?  一那が酒瓶を手に取ろうとすると、横から十六夜がそれをかっさらった。

「これは度数が高いから。一那はもっと弱いお酒から始めようねー?」 「……そうか」

……少し、残念だ。一那は仕方なく、自分でみかんジュースをコップに注ぎ直した。