――【神々の黄昏】から、半年が過ぎた。
海棠鷹斗の手腕には目をみはるものがあった。彼がこの壊れた世界の支配者になっていこうとしているその様子を一番近くで見ながら、ボクは一種の高揚感を覚えていた。
もうすでに元海棠グループの研究所だったところは再建が終わり、彼に助けを求める人々とそれを救う我々、の図式が出来上がり、そして、まだ大枠だけではあるが、将来的には政府として機能するはずの組織が組み上げられていた。たった半年で。ありえない速さだ。
その日、ボクは警備係と共に避難民が集まっている区域の視察をしていた。簡単な消毒薬や抗生物質なんかは定期的に供給していたが、特殊な薬を必要としている人もいるはずだから、という鷹斗くんの指示だった。
だいたいの調査が終わり、リストを見て合成法を思い浮かべながら歩いて行くと、避難地区の外れにある墓地が目に入った。屈強な男たちが穴を掘っては骨を埋めていく。半年が経っても、死者が出なくなるわけではない。
「彼らは穴掘り係、ってところですかー。大変なことで」
無感動にそう呟いたとき、子供の泣き叫ぶ声が聞こえた。
「妹を燃やさないで!」
はっと声のした方を見れば、一人の少年の背中。彼の抱きかかえた腕からは、彼の妹のものらしい腕が力なく垂れ下がっている。
「ああ……伝染病の予防に、火葬の指示が出てましたっけねー……」
係員たちがどうにか説得を試みているようだが、少年はがんとして腕の力を緩めない。ボクは気まぐれを起こして、その少年に近付いた。
「きみ、どうしたのかな?」
少年は後ろからかけられた声に驚いた様子で振り返る。ボクが笑みを浮かべてしゃがむと、少しだけ警戒を解いたようだった。
「おじちゃんたちが、妹はもう死んじゃったから、燃やさなきゃいけないって」
「そうだね。死んだ人の体からは病気の菌が出ることがあるから」
「でも……そんなの、悲しいよ」
ボクは彼の腕に抱かれた少女を見る。すっかり乾ききった髪に巻かれた、ピンク色のリボン。
「じゃあこうしよう」
ボクはそっと手を伸ばすと、彼女の髪からリボンをほどく。戸惑う少年の髪に、カチューシャのようにして結びつけた。
「こうすれば、きみは妹とずっと一緒だ。どうかな?」