炎に包まれるエントランス。音を立ててはぜるそれらに取り囲まれながら、ボクはずるずると座り込んだ。
煙に巻かれて朦朧とする意識の中、なにやらぎゃいぎゃいとわめいている左手の相棒をぼんやり見つめる。
ふと、【彼】の開発初期の、失敗を繰り返していた頃を思い出した。
基本的なつくりのAIの中に、親友の性格をインストールして、違和感を覚えてはアンインストールして。その繰り返しだった。
一度性格プログラムをアンインストールしたら、それまでの会話はすべてなかったことになった。そういう設定にしてあった。
もし、ボクの脳も同じつくりだったら。なんて夢みたいなことが思い浮かぶ。
もし、アルフレッド。君のことをボクの脳からアンインストールできたなら。ボクは【キミ】を作らなかっただろう。
もし、鷹斗くん。君のことをボクの脳からアンインストールできたなら。ボクは罪を背負わなかっただろう。
もし、レイチェル。君のことをボクの脳からアンインストールできたなら。ボクの心の時は止まったりしなかっただろう。
もし、撫子くん。君のことをボクの脳からアンインストールできたなら。ボクは今、こんなに胸が苦しくなってはいなかっただろう。
でも全部、もしもの話だ。
憐れで愛しい彼らのことを、ボクの脳から消し去ることなど、できはしない。
「だから……せいぜい、苦しんで死にますよ」
苦しかっただろう、辛かっただろう、彼らに敬意を込めて。
炎が勢いを増す。ボクは床にごろりと寝転んで、そのまま目を閉じた。