「No problem. What's your name?」
「My name is ――」
その名前を聞くと、なんだか元気が出る。
いつもみんなに元気を振りまいている僕だけれど、どこか空回りしているところもあって。でも彼女はそんな僕とも仲良くしてくれて、気が付いたら僕の方が元気づけられていた。
その名前を聞くと、意識の底が刺激される。
ぼんやりと霞がかった記憶たちが、彼女を前にすると急速にうごめき出すのを感じる。優しいこの少女について、自分は一体何を知っているというのか。優しい彼女に不幸を運ばねばならない運命だとしたら、それはなんと辛いことか。
その名前を聞くと、イラつくが悪い気はしない。
正直面倒くさいしお節介だしなんでこんなヤツとつるまなきゃいけねーのかさっぱりだが、どうしてか悪い気はしていない。それどころか今まで感じたことのなかった不思議な感覚を覚えるものだから困る。
その名前を聞くと、なぜだか落ち着かない気持ちになる。
今まで生きてきた中で絶対に変わるはずのなかった、変えてはいけなかった何かが、彼女によって揺るがされているのを感じる。しかしそれはどこか甘い痛みでもあって、どうしたらいいのかわからない。
その名前を聞くと、無条件に安心する。
小さいころからずっと一緒にいたせいか、今更あいつに関してなんの感慨もない。ただ、最近二人きりになる時間が減っているのは事実で、そんなことを気にしている自分が恥ずかしくもあり苦しくもある。
その名前を聞くと、心が甘く痛む。
初めて会った時から、心惹かれていた。彼女の言葉ひとつひとつが新鮮で、彼女の仕草ひとつひとつで俺の世界は色味を増していく。誰よりも人間らしく、俺を人間に近付けてくれた少女。
ボクがその名前を聞いたとき、かみさまのサイコロが一の目を出して、世界は大きく分岐した。
その名前は――九楼、撫子。