「ビショップ、キングからの命令です。飲み会をしましょう」
「……は?」
突然部屋にやってきたルークの言葉を、ビショップ、こと英円は一瞬理解できなかった。
時は2017年。神々の黄昏から1年が過ぎた。独裁を敷く政府に連れてこられ、ポジション・ビショップの名を与えられてこのかた、先輩にあたるこの人物の言うことは相変わらず意味不明だ。
「だから、飲み会ですよ。お酒を飲む会です」
繰り返したルークはにこにこと得体のしれない笑みを浮かべている。円はうんざりした表情を自覚しながらため息をついた。
「飲み会って……ルークはまだしも、僕とキングは一応未成年なんですけど」
「細けーことは気にすんなよー! 1年や2年変わらねーって」
カエルが茶々を入れる。ルークはそうそう、と相槌を打つ。
「それに、ほら。ちょっと前にようやく穀物とか果物とかが実ったでしょー? 醸造酒がちゃんと作れたかどうか、まあ実験結果の確認も兼ねてるんですよー」
「……なら最初からそう言ってください。わかりました。行けばいいんですね?」
「はいはい。じゃ、そういうことでー」
ルークはひらひらと手を振って部屋から出ていく。その背中を見送って、円はまたひとつ、ため息をついた。
そして、今に至る。円がどうやら自分は酒に強い体質らしいと気付いたのは、同じペースで飲んでいたキングとルークの様子がおかしくなってきた頃だった。
確か最初は真面目に味の評価をしていたと思う。そこから仕事の話に飛んで――
「今日も撫子の寝顔は綺麗だったよ」
――どうしてこうなった。
円は瞳を輝かせるキングの顔を見て苦笑する。独裁者の実態はこれだ。一人の少女に盲目に恋をする少年。
そして同時に、苦いものも胸に湧き上がってきた。初めて飲むには苦い日本酒でそれを飲み下す。
「そうですねー。ボクもメディカルチェックのたびにほれぼれしちゃいますよー」