「オメー、アイスばっか食ってっと太るぞー」
とはカエルくんの言である。仕方ないので最近は控えているが、研究者に甘味はつきものだと思う。頭脳労働に糖分は必要不可欠だ。
「あー、集中が切れましたねーこれは」
「なんだ、情けねぇなぁ。……オーイ、どこ行くんだよー?」
「糖分を、ね。補給しに行くんですよー」
普段の仕事に加えて目覚めたばかりの撫子の体調管理や話し相手も任されているのでせわしないある日のこと。研究室から廊下に出て歩きながら、思い浮かべるのは撫子の顔だ。彼女におやつを持っていくついでに、自分もちょっとくらい食べたってばちはあたらないだろう。
職員用の調理室、その奥の貯蔵庫に入ってあれこれあさっているうちに、いいことを思いついた。カフェモカとバニラアイス。二人分を拝借して調理室に戻るボクの片手で、カエルくんはやれやれとため息をついていた。
「あふぉ……?」
「アフォガード。カップにあるアイスに温かい飲み物を注いで食べるデザートです」
「美味しそうね、いい香りもするし」
「美味しいと思いますよー。さ、注ぎますねー」
一式を持って撫子の部屋に行くと、甘いものの好きな彼女は嬉しそうな笑みで迎えてくれた。ボクの注ぐカフェモカでアイスが緩やかに溶けていく様子を興味深げに見つめている。自分のぶんもさっと注いで席につくと、彼女はいただきます、と小さく呟いてスプーンでアイスをすくった。
「……美味しい」
「よかったですー」
「コイツ、自分が食いたいからこれ持ってきたんだぜ、絶対」
「ひどいなあカエルくん。ボクは撫子くんに喜んでもらおうと思っただけですよー?」
「どーだか」
ふふ、と笑う彼女。ボクもカップの中のほんのり温かいそれを口に含んだ。カフェモカのほろ苦さと、バニラアイスの甘さ。我ながらいいものを思いついた、とこっそり自画自賛したりして。
――まあでも、一番甘いのは、撫子くんの笑顔、なんですけどね。