その日も、ボクはアラームの機械的な音で目を覚ました。アラームを止めて寝ぼけまなこを擦る。最近は忙しくて、しっかり睡眠をとったのは久しぶりな気がする。かえって頭がボンヤリするのは疲れすぎというやつだろうか。

「おはよう、カエルくん」

机の上に置いてあるカエルくんに声をかけてかれを左手に装着すると、ぱっぱらぱーん、というなんとも間抜けな音が部屋に響いた。こんな効果音、プログラムしてあったっけ。

「おっはよーレイン! 今日はオマエの誕生日だな! オマエももう24か、オレの歳を、ふぎゃっ」

――反射的にカエル人形をぶん投げていた。壁に激突したぬいぐるみは情けないうめき声を上げる。

「……君だけには、祝ってほしくないよ。知ってるだろう?」

「…………」

ボクの低い声にそれらしい沈黙をも返すのだからこのAIは優秀すぎる。ボクはため息をついてのそりとかれを拾い上げた。

「……なんてね。あーあ、ボクも歳をとったなぁ」

左手に収まった相棒はまだ返事をしない。意地悪だったかな、と苦笑して、ボクは部屋を出た。

日中は、いたって普通に時間が流れた。いつも通り、【ルーク】としての仕事をこなす。夕陽が赤と青の空に橙色を混ぜ込むくらいの時間帯になったころ、通信機が鳴った。

「はーい、ルークですがー」

「やあレイン、今日はいつもの会議を少し早めようと思うんだけど」

「あっははー、キング、急にどうし、」

た、と口に出す前にはたと気付いた。仕事中もちらちら脳裏をちらついた、【誕生日】の言葉。暦が曖昧なのをいいことに毎年こんな感じでなあなあに祝われてきたが、今年は別だ。おそらくは今年も空き時間にケーキを作らされただろう後輩くんを少し憐れに思って、耳から離してしまった通信機をまた耳に当てた。

「レイン?」

「……すみませんー。ちょっとミニッツの方で手が離せない件がありまして、今日の会議は欠席させてくださいー」

「えっそうなの? じゃあ俺も手伝」

最後まで聞かずに、通信を切った。しばらく真顔で通信機とにらめっこをしてしまう。

「あの、ルーク?」