2017年、7月。世界が壊れてから、7ヶ月と半月ほど。

もうすっかりCLOCK ZERO政府は国内の覇権を握り、俺は【キング】として、顔を隠しつつもこの国の支配者としての地位を確立していた。

政府の権力が強まるとともに当然のように反政府組織が出来上がったりして、まるでゲームのようだなどと思いながら俺は政治と研究を両立させていた。セカンドの政治家たちは【有心会】と名乗るその組織を脅威に感じているようだったが、俺はまだそれほど邪魔だとは思わなかった。ぽっと出の民間人組織に何ができるというのか。いまだ混乱の収まりきっていないこの世界で、力を持つのは、あくまで純粋な科学力だ。

今日も俺は身分を隠してミニッツの研究部におもむく。【ルーク】――レインがきびきびと指示を出している様子は、見ていてなかなか面白い。

「おや、鷹斗くんじゃないですか。政治には飽きちゃいましたかー?」

ドアの開閉音で俺に気付いたレインが、振り返って皮肉めいた口調で話しかけてくる。今の俺のことをどう説明してあるのかは知らないが、顔見知りも多いミニッツの研究員たちは気を遣ったようにそれぞれの作業に戻っていく。

「別に飽きたわけじゃない。ちょうどキリが良くなったから、この後はこっちに時間をあてようと思っただけだよ」

「はは、そーですかー。それじゃあ、あなたがいなかった間の進捗でもお話ししましょうかねー」

「よろしく頼むよ」

乱雑に――本人曰く自分では正確に位置を把握しているから充分だとか――積み上げてある書類からいくつかを取り出して、レインが報告を始める。それを聞きながら、自分の脳が研究者のそれに切り替わっていくのが感じられた。やっぱり、ここが一番居心地がいい。

進捗はまあまあといったところだった。相変わらずの一進一退。けれどもう最後のピースはすでにはまっている。あとは進むだけなんだ、そう思えることが喜ばしく、むずがゆくもあった。

「……こんなところですかねー」

「ありがとう。そうしたら次の改良点としては――」

一通りレインの話を聞き終わって、思いついたことを話そうとしたところで、ばたばたと研究員の一人が駆け寄ってきた。

「ルーク、鷹斗さん、大変です」

「どうしましたかー?」

「試行実験が……成功、したかもしれません」

心臓が大きく鳴ったのが分かった。実験室に足早に案内されるまま彼の説明を聞く。

同じ時空に帰ってこられなくなる可能性や時空の狭間に置き去りにされる可能性を考えて、実験は矯正措置を施さざるを得なかった元犯罪者を被験者として行われていた。試行実験の内容は、こうだ。

実験室Aに転移装置をもった被験者を、隣の実験室Bには正確に時を刻む時計を、入れる。転移装置に「ある決まった過去の時刻の実験室B」に転移するようにあらかじめプログラムしておき、ボタンは「行き」と「帰り」のみ。被験者には「行き」のボタンを押した後起こったことを書き留めさせ、「帰り」のボタンを押すように伝えておく。無事に2回の転移が成功すれば、実験室Aに設定したのと同じ時刻の時計があった旨を書いた用紙を持った被験者が現れるというわけだ。