――世界が壊れてから、もう何日が経ったろう。

瓦礫ばかりの路地裏に佇んで、赤と青の混ざった空を見上げて目眩に耐えながら、考える。

――あいつを失ってから、いったいどのくらい過ぎたのだろう。

最後に見た、病室で眠っていた姿を思い返すより先に、ついさっきまでいた世界で失ったばかりの【撫子】の顔が脳裏をよぎって、無意識に強く歯を噛み締めた。いつもいつもいつも、オレはあいつを救えない。

失ってからどのくらい過ぎたかなんて、考えるだけ無駄かもしれない。【撫子】を救うために時空転移を始めてから、日付の感覚が曖昧だ。終夜に情報の整理を頼むために時折有心会に戻るが、その間隔も一定ではないようで、この間は「なかなか来ないので迷子になったかと思ったぞ」と彼なりの心配の言葉をかけられてしまった。

まあ、それは些末なことだ。自分のことなど、どうでもいい。あいつを、救うためなら。

目眩がおさまったのを確かめて、歩き出す。じゃりじゃりと足元で小石が音を立てる。

「撫子……」

呟いて、何気なく思い返そうとした撫子の顔が、笑顔が、頭の中に思い描けないことに気付いてぞっとした。頭を抱えて足を速める。

そんなことが、あってたまるものか。けれどいくら探しても探しても、思い当たるのは事故の瞬間の恐怖に満ちた顔、病室で眠る死人のような顔ばかり。

オレだけは、オレだけは。いくら苦しくても悲しくても、あいつをいなかったことのように扱うこの世界を許さないと決めたのに。オレまでも、あいつを自分の世界から消してしまうのだろうか。忘却。そんな残酷な。

――壊れていく。

不意に浮かんだ単語に、口の中が苦くなる。こんな壊れた世界で、それ以上に壊れていこうとしているのか、オレは。それとも、世界が壊れているから、オレも壊れていくのか。

隠れ家に入って息を吐き、考えを振り払うように頭を振る。たとえオレが壊れても。あいつの顔を思い出せなくなっても。

「それでも、助ける……」

もうそれだけしか、自分に存在意義を見出せない。いつの間にか小さく震えていた手で時空転移装置を握り直し、ダイヤルをあわせてスイッチを押し、ぐにゃりと自分が歪む感覚に身を任せた。