彼女が撃たれて、鷹斗くんと対峙した後、ボクは独房に入れられた。ご丁寧に電波暗室になっていて外部と接触できない特別製の部屋が選ばれて。ボクにはもう何をする気もないというのに、滑稽なことだ。

――海棠鷹斗は、ヒトとして誘惑に抗った。神に手の届くはずだった王様はしかし、人間であることを選んだ。そして彼女は助かり、そう、ハッピーエンドだ。

独房の椅子に腰掛けてうなだれると、ぐうっと喉が詰まる。涙は出ない。ただ、懐かしい感覚だと思った。

それは、ボクがまだ神童の存在を知らなかった頃。一人で、ボク自身の力で、妹を蘇らせるための理論を思索していた頃のことだ。

ボクの頭脳ではどうやっても正解に辿りつけないことは、早い段階から感覚的にわかっていた。それでも諦められなくて、何度も何度も考えては消し、考えては破り捨てていた。そんな時に、こんな風に喉が詰まる感覚がしたものだ。

親友には「心に負荷かけ過ぎなんじゃねーの? オマエ根詰め過ぎなんだよ」なんて心配されたけれど、当時のボクは聞く耳を持たなかった。ただ足りないという欠乏感がボクを追い立てていた。

けれど、今ならわかる。ボクはずっと、絶望していたんだ。

だってこんなに息が苦しい。生きるという行為が苦しい。

あの頃よくもまあ生きていられたな、なんて思う。しかし海棠鷹斗という希望を一度知ってしまったボクの絶望は、もしかしたらあの頃よりもずっと深いのかもしれない。

「あーあ。嫌ですねえ」

ボクが殺した彼女はヒトで。海棠鷹斗も結局のところヒトで。そしてボクも、なんだかんだヒトなのだ。カミサマに弄ばれ、希望にすがり、絶望に苦しむ、小さなイキモノ。

もうボクの夢はついえた。このまま喉が詰まってふさがって死んでしまっても、あるいはいいのかもしれなかった。