2016年、6月1日。その日も特に何も変わらず、ボクの一日は始まった。

神童、海棠鷹斗のそばで研究をして、もう4年にもなる。最初は脳機能の蘇生など医療方面の発達を目的としていた研究方針は、今となっては全く別の方向、時空跳躍の方向へとシフトして、その理論構築も大詰めの段階にあった。

理論構築に必要な計算をコンピュータで走らせて、ちかちかと変化していく画面を眺めながら、ボクはぽつりと呟いた。

「今年も、行けなかったなあ」

「……レイチェルの墓参りか?」

珍しく低い、カエルくんの声。ボクはカエルくんを目の高さに持ち上げて微笑んだ。

「そんな深刻な声出さないでよ、カエルくん。あの子ならきっと分かってくれるから、大丈夫だよ」

「でもオマエは行けなかったことを後悔してる。そーだろ」

「まあねー、そりゃあ申し訳ないなって、思うよ」

もうずいぶん彼女の墓前を訪ねていない。甘えん坊だったあの子は、寂しがっているだろうか。

「休暇でも取ればよかったのによー」

「そういうわけにはいかないよ。……あ、終わった」

ボクが休暇のひとつも取らないのは真面目だからじゃない。ただ、見守っていたいのだ。――神に愛された少年が、その才能を余すところなく発揮して世界を変える、その過程を。

出力された結果を見ながら理論との整合性を確かめていたら、ふと、周囲の空気がどこか浮わついているのに気付いた。

「?」

ボクが顔を上げてきょろきょろと首を巡らせても、特に何の変化も見られない。首を一つ傾げてまた結果の分析に戻ろうとしたところで、唐突に間近で破裂音が響いた。

「うわぁ!?」

思わず声を上げて驚くと、周囲から笑いが漏れる。硝煙の臭いと共に体にはりつくこれは――紙吹雪?

「ビックリしたぜー! なんだなんだぁ!?」

目を白黒させることしかできないボクより先に、カエルくんが素直に驚きを述べる。研究員の一人――もちろんボクより年上――が無邪気な笑みを浮かべて手にしたクラッカーを下ろし、カエルくんやボクについた紙吹雪を払ってくれた。